既有知識と推論

セッションの3回目を先日開きました。今回は、言語獲得における模倣説と生得説についてお話しました。
そのあと、ちょっと、流れに反するんですが、今のタイミングが良いと思って、言語発達心理学の内容をご紹介しました。

「隣の家の窓にボールが当たった。中からおじさんが出てきた。」
こういう文章に出会ったときに、
(1)窓はどんな窓?
(2)どうしておじさんは出てきた?
こんな質問をすると、どうでしょうか?私たちは、これまでの経験や想像力を働かせます。つまり、既有知識と推論を使うというわけです。そして、
(1)窓は、ガラス窓。
(2)窓ガラスが割れたから、怒って出てきた。
こう考えるでしょう。
しかし、既有知識や推論の力がまだ十分でない場合、文中に答えがないような場合に、先の(1)(2)の質問には答えることができません。
そんな場合、経験できるものであれば、経験させるという手立てもあります。それから、本人の想像力を活用する場合もあります。最初の文では難しい場合、

「隣の家の窓にボールが当たった。そしたら、窓ガラスが割れてしまった。そしたら、中からおじさんが出てきた。そしたら、おじさんは怒っていた。」
これは、おしゃべりが上手になった幼児が言いそうな形ですよね。「そしたらねぇ〜」「それでねぇ〜」と接続のことばを使いながら、事実をことばにしていきます。目に見えたことを1つ1つことばにします。こういう文章であれば、既有知識や推論の活用が少なくてすみます。少なければよいという問題ではありませんが、文中に表れていない内容を考えるときに、その1つ1つをことばに起こしていけるという力は我々にも子どもたちにも必要です。
私たちが知らず知らず文章を読みながら、頭の中では、文面以上のことを考えています。それをはっきり明示化するようなトレーニングも楽しいですよ。